二、「行」字と「又」字のコンビネーションによる『新放射式読解記述法』
『放射式読解記述法』とは二つ以上の行程区間が起点を共有して異方面に伸びることを記す方法。
(一)、「行」字 について
1、「伝」に載る「東行至不彌國百里」の「行」字について
倭人伝の全行程叙述の中でこの一箇所だけ「方位」語の直後に「行」字が付いている。結論を言うと、「行」字が単独に「方位」語に接続し引用される場合、 「行」字が用いられている行程区間を以って、そこまで述べてきた一連の行程叙述が終焉することとなる。
つまり、「方位」が終焉し、進む方向がなくなる意になり、そこに至る一連の行程叙述が終焉することを告げているのである。随って、この区間の直後に記されている区間の起点は、「行」字を用いた区間の「終点」ではない。概ね行程叙述の最初の起点となる。「伝」では「投馬國」への起点は不彌國ではなく、帯方郡になる。これは、古代漢籍の行程叙述上の『決めごと』であり、現代人にとっては『失われた語法』なのである。この語法は「行」字に止まると言う意があることから派生する。
2、『説文』に「行、人之歩趨也。从彳亍」とあることについて。
『説文解字』の「趨」字の本義叙述には、「走也。从走。芻 の聲」 とある。
つまり「趨」は「走」をいう。
「走」字を『説文』に見ると、「趨也。从夭止。夭止者屈也」とあり、「夭」と「止」の合字であることが分かる。「夭」とは、人が頭を曲げて体の正しからざる貌を象ったもの、或は屈んだ人の姿を象ったものである。「止」字は地に在って止まっている足の意である。いずれにせよ、二字は体調悪く、蹲くまっている人を連想させる。「走」の字義が屈んで動かない人の姿であることが分かる。
つまり、『説文』の「行、人之歩趨也」語の訳は、(「行」字とは、①歩いている人が、②歩みを止め、屈み込むこと)となる。
「行」字の義符「从彳亍」と本義、そしてその訳出を図式化すると下記のようになる。
義符「彳」=「すすむ」の義が関わる本義叙述部分=「人之歩」=「歩いている人」
義符「亍」=「とどまる」の義が関わる本義叙述部分=「趨」=「歩みを止め、屈みこむこと」
二字それぞれの持つ字義範囲がオーバーラップして醸す全体の意義が 「行」字の持つ本義なのである。この解釈であれば、「行」という會意文字の構造原理に違背しないのである。『説文解字』の「行」字には、進む者がやがて停止する、という字義があるのである。
3、許慎が明らかに「行」字に、「進みつつあるものが、 止まる」 という義を認めていた一つの証について
 「ススム」と言う義の「歬」字が、 そのよき例である。「歬」は『説文解字』の「止」部の属字である。「止」と舟字の古体「月(肉月)」との会意。 許慎はその本義叙述を次のように記す。「歬、不行而進謂之」と。ここに「行」字が引用されている。「行」字に止まる義が付与されているからこそ、「不行」と用い、止まらずに進むことを、「歬」という、と読める。
(二)、「又」 字について
   「又」 字には、二種類の使用法がある。
1、第一使用法の 「又」 字
 文章作成中、既に一度使用済みの文言を 後に再使用したい場合、その使用したい箇所に 「又」字を置くことにより、件の文言は、その位置に甦る「又」 字がその再使用したい語の代替詞として記入されるのである。
2、第二使用法の「又」字
同じ語が立て続けに三度使用される場合、二つ目以降のそれを「又」字で代替する法を言う。
以上に述べた「又」字の二つの使用法は、古代中国人の文章の読み書き上の決まりであり、語法である。では、どのような経緯で「又」字がこのような役割を担うことになったかである。これを説く漢籍にまだ出会わないので、 筆者の憶説を述べておく。

『説文解字』によると、「又、手也。象形、三指者、手之列多、略不過三也」 とあり、段注に「此即今之右字」とある。つまり、「又」とは「右」のことなのである。 右側に在るものとも解せる。(因みに二字の発音は同じ「ゆう」である)。 一方、二つの使用法に述べたように、「又」字は既に一度書き終えた語句の代替詞である。「既に書き終えた語句」とは、漢文に於いては、常に「又」字の位置より、右手に在ることになる。随って、「右」つまり「又」字をその代替の辞に用いたと筆者は考える。「又」字が古代漢籍に登場した場合、反射的に心に用意することは、その「又」字に代替を託した「字」や「語」は、既に読み終えた文章の中に形と意味を持って実在している、と言うことである。これを『被代替』語と名付けて置こう。文章中、「又」字に遭遇し、その『被代替』語を探す目安は、又字の次に記されている『辞』が何か、を先ず確認することである。被代替詞は概ね「又」字の次の字と同じものの前に在る。

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