<古代漢籍読破に必要な漢字研究のススメ>

はじめに                      北京大学医学部 名誉顧問 岩元 正昭

我が日本国に文字のない時代の歴史が古代中国の史籍に遺されている。その最たる史籍は『魏志』倭人伝である。我が国の開闢の事象をこれにより知ることができる。これは天の賜であり、先ず深甚なる謝意を古代中国に表するものである。
ここに言う『魏志』倭人伝とは正確に表現すると晋朝の作史郎陳寿が270年頃編纂した史籍、『三国志』の一つ、「魏書」の「巻三十」、「烏丸鮮卑伝」と共に載る「東夷伝」の倭人の条を言う。ここに登場する倭の女王卑弥呼は今なお日本に於ける国民的ヒロインである。卑彌呼が日本国の史書『古事記』や『日本書紀』に連綿と繋がる天皇系譜に如何なる関わりを有する人物か、或いは卑彌呼の為政の地、邪馬台国が現在の何処に比定されるのか、という問題は悠久の謎であり、その解明努力はまさに日本人のルーツ探索というロマンである。この命題は}我々の先祖はどこから来たのか?日本人はどのような文化を構築し、共有してきたのか?~と言う命題と等価だからである。随ってこの関心傾向は日本国民の性向と言える。
日本民族のアイデンティティーの育成に一翼を担い、日本人の心にロマンの灯をともしたのは、史籍『魏志』倭人伝であったかも知れない。
この種の恩恵に与かる国は日本以外にも多々ある。文字を知らなかった国々はその後漢字を移入し、漢字文化圏を構成する。今日では漢字以外に自国で考案した文字を併用する文化に浴すものもある。
しかし我々現代人の殆どが古代漢籍を現代語同様には読破出来ない。よく考えるとこれは忌々しき事態である。自らのルーツを知る手だてを放棄しているようなものである。
そもそも漢籍の完全なる解読技術を我々現代人は所持しているのか。実はこれが怪しいのである。
古代漢籍の研究の手順は古代漢籍の記述の信疑の確認に端緒を開き、更にその有り様の分析により始動する。
ところが漢籍解読は容易に進捗しないのである。
実は漢字は生物である。永い時間の中で今も引伸という変態を遂げ、成長している生命体である。つまり漢字が考案された時点での本来の字形と本義は人の生活営為や社会環境の変化に即して変容をきたすのである。随って古代史籍に載る漢字がその使用された時点でどのような意味を持っていたかを見極めることが難しい。その上に漢文には句読点がない。文の切れ目や文中の語句の断続が判明し難い、という負の要因が付き纏う。これが古代史籍の解読を更に難渋なものにしている。
 また古代漢籍に使用していた語法を濃霧の立ちこめる渺茫たる過去に置き忘れ、現代人は享受していない。そこで不明瞭な漢籍の趣意解明を果たす為に漢字学的方法論以外に多種多様な学問分野毎の方法論が登場する。
遺跡や遺物により、人類史を研究する方法。海洋気象学に則り、実際に古代の舟を建造し海に浮かべ、航海日数を割り出す方法。また冶金の原理・方法とその技術を駆使した銅鏡等の含有物質を抽出し、その産地を特定する方法。又計量史学は年代別の計量器を模造して時代別の測量単位を抽出し、王朝別の標準度量値を特定する。天文学は卑弥呼の死んだと推定される年に皆既日食があったという研究論文を出す。言語学、旧称、博言学は人類の言語の特徴、構造、機能、系統、変遷等研究の方法を駆使し、又古き訓詁学は六書音均表などの研究から漢字の発声音を解明し漢字本来の字義を割り出したりする。
これらの研究は古代漢籍に載る事象の有無を確認し、時系列に在る事象個々の関わり方を検証する。当然、漢字研究を助長する。両者は相乗効果を生む関係にある。随って漢字研究による漢籍の趣意をより適確に穿つ方法は以上に羅列した方法論に与せず寧ろ相対する。しかも個々の方法論は縦割り状の幾条かの学問系統線上に孤立する存在である。当然相互に連絡し合わない。
随ってこのような多種多様な方法論をより効率的な史籍解読の動力に変えるには、学際的協力体制を樹立する必要があるのだ。この際主導性を発揮し多種多様な研究論文を統括する役務にあるべきは漢字解析を方法論に持つ古代史学研究のcommitteeである。
如何にしたら古代漢籍を現代語同様に読み取ることができるか。そして漢字文化圏を構成する諸民族のルーツ解明に寄与し、民族個々のアイデンティティー構築の基をつくれるか。
漢籍が漢字と言う記号体系で書かれている以上、如何なる方法論よりも漢字学的方法論によるそれがイニシャティブをとるべきは自明の理である。
更なる漢字学の研鑚が俟たれる。
そこで前述の『失われた語法』の記憶を呼び戻す作業がある。
以下の数例は『失われた語法』が実在すること、これが如何なる語法であったかを解明するモデルである。


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